平成30年度仕事始め式

小泉健理事長が仕事始め式で教育、経営のことについて、教職員に話しました。

今、大学は過渡期を迎えようとしています。これは前から言われていたことですが、ご承知のように、18歳人口が激減します。それで、文科省は、これまでに加えて、第三の大学併合のパターンとして、国公立大学と私立大学の併合を認めようとしています。もちろん学校法人と国立大学法人等の法人の合併は、その性格の違いから、統合できないわけです。そのために、民間会社でいうと、いわば持ち株会社のような第三法人を作って、その傘下に各法人を置こうとしているのです。それはゆるい連合であり、果たしてうまくいくかどうか、疑問だということがいわれています。もちろんこの制度自体は、強制ではなく、第三の、いわば、各大学への選択肢の一つとして、そういう制度を設けようとしているわけです。

翻って考えれば、これまで私立大学同士の合併、または大学の学部・学科の一部譲渡など、多様な制度が認められて来ましたが、十分には活用されてはおりませんでした。したがって、このような異質の法人合併による制度改革では、選択されるかどうか、少子化対策の施策としては、非常に厳しいものがあろうかと思います。

やはり大学の場合には、大学そのもの自体が変わることが求められてくるわけです。個々の学校の問題なのです。ご承知のように、東北では、多様な、しかもたくさんの大学がありますが、平凡で特色の無い大学の場合には、今後経営が困難になることが予想されているわけです。

本学では、大胆に経営の合理化を図り、今日まで、その改革により無借金の経営を続けています。専門家から、珍しくバランスシート上も大変優れたものと評価を受けています。しかし、これは経営上ないし財務上の問題であって、優れた教育機関といえるかどうかということは別問題なわけです。優れた学校とは、過去を振り返ってみて、あの学校であのような教育を受けたことで今の自分がある、そう評価されるか、その学校を卒業したことについて肯定的な評価ができるかどうかであろうかと思います。また、在校生のみならず、ご家族からも、入学させて良かったという高い評価を受けるかどうか、この点は非常に大事であろうと思うわけです。そのためにも質の高い教育をしなければいけないと思います。

質の高い教育とは何かということですが、高度な理論を難しく講義するということではありません。誰にでも分かる平易さと、その講義を受けたことによって学問上の喜びを得られるということが大切です。

学生たちのような若者は、本来、年代的にも、社会のいろいろな問題について、興味や関心を持つはずです。ところが、講義が眠くなるような、教科書をただ棒読みするような、平凡なものであっては、教育から喜びを得るわけがないのであります。

あなた方が学生であったらば、どのような講義を望むか、そういう反対側の目線に立って考えていただきたいと思うのです。

また、講義には、そのためにも十分な準備の時間をかけてもらいたいと思います。教場に行ってから、あたふたと教科書を開いて、今日は何をやるんだったかなと考えるようでは、もう教育者として失格だと思います。

教師といえるためには、幅広い教養が必要です。幅広い教養を持つことによって、講義が深いものになります。

日本文学の父ともいわれた小林秀雄の明治大学での教授としての授業は、大変、幅広く、しかも奥深い教養に支えられたものでした。小林秀雄は、ご承知のように、フランス文学学科を卒業しています。ランボー論を書いた卒業期を終えると、フランス文学にとどまることなく、ドストエフスキー研究などのロシア文学、ゴッホなどの近代絵画、モーツァルト、歴史、実朝や西行などの研究、そして、最後は、これまで最も優れた研究書といわれた本居宣長論を書いております。

つまり、狭い専門だけの教師にとどまってはいけないんです。人間として優れていることが必要なんです。

孔子は、弟子から「人生でもっとも大切なことは何ですか」と問われ、「それは恕である」と答えています。結局、孔子は、知ではなくて、大切なものは情であるというふうに答えたのです。皆さんは、生徒や学生に尊敬されているでしょうか。好かれているでしょうか。卒業した学生が、 あなた方にまた必ず会いたいと思うでしょうか。そういうような気持が大切だと思います。

学校の運営に携わる事務職員もそうですが、長くやっていると事務的になってきます。マンネリ化してくる。そうであってはいけないと思います。日々新たにです。社会はめまぐるしく変わってくる。人も変わってきます。常に新しい試みに挑戦してもらいたいと思います。

あなた方の若い創造的な力で、大学も高校も他の学校も、よりいいものにしていっていただきたいと思うのです。

今日は、新しく採用された人も含めて、恒例であれば、私が幹部職員に対する話をすることになっておりましたけれども、それにとどまらず、全部の教職員に対する、新年度初めの話となりましたけれども、これから力を合わせて皆さんと頑張っていきたいと思っていますので、ご助力をよろしくお願い申し上げる次第でございます。