能代のねぎ
能代市近郊で採れる「ねぎ」を題材に書き綴りました。
寒くなってくると、長ねぎが旬で、甘くなる。
毎年この頃に、埼玉の深谷に住んでいる叔母から大量の長ねぎが送られてくる。叔母の話によれば深谷ねぎが日本一なのである。それは確かに甘く、何とも言えぬ冬の旬の香りがする。
数センチの長さにぶつ切りにしたねぎをオーブンで焼き、塩をかける。日本酒のつまみにする。これが一番美味しい食べ方だ。叔母から長ねぎが送られてくるのを、毎年首を長くして待っているのである。
深谷ねぎは有名で、叔母が言うように日本一かもしれない。
しかし私は、能代の長ねぎが好きだ。
日本海に面した能代のねぎ畑は砂地で、畑の栄養は何もないように見える。しかし、海辺の海藻を発酵させて粉末化しそれを肥料に使っている。天然のにがりであって、マグネシウムや色々なミネラルが含まれているのである。化学肥料で作られた畑のねぎとは全く違うのだ。
実は、長ねぎの甘さと香の源は、大地の持っているミネラルなどの栄養だ。私たちは作物を連作し、大地の栄養を奪い、死んだ土地にしてきた。こういう土地から、風味や栄養のある作物が生まれるはずがないのだ。
だから、私は能代の長ねぎが日本一だと思っている。
長ねぎの鍋物はいろいろあるが、すき焼きでは、ねぎの風味が殺されてしまう。湯豆腐だと、ねぎの香と味は失われないが、あれはやはり豆腐を食べる料理だ。かつ丼や親子丼ではもうねぎの味は無い。
ねぎの風味が活かされ、料理のコクと調和が出てくるのは、やはり「ねぎま」だ。このころのマグロは大変おいしい。みりんとかつおの出汁としょうゆで鮪をぶつ切りにして鍋にする。ねぎは最後だ。
大きなコップに純米の大吟醸を並々とつぐ。こういう飲み方もいいが、やはりこの頃になると燗がいい。そして、竹串に刺したねぎにも塩をふって、焼く。とっくりから猪口に酒を注ぐ。
縁側から西の空を見ると夕暮れで、赤く染まった西の空を南へ下る一群の渡り鳥の声が高く響いている。