平成29年度 ノースアジア大学・秋田栄養短期大学 卒業式 学長告辞

平成30年3月17日(土)


厳しかった冬もようやく終わって、感動的な春が訪れようとしております。
 今日、このすばらしいときに、本学を卒業していく学生諸君に、心からお慶びを申し上げたいと思います。また、ご列席の皆様にも、この場をお借りして、御礼を申し上げる次第でございます。

学生諸君にお話しするのは、大学では、これが最後になるかもしれませんが、今日、皆さんに一つだけお話ししたいことがあります。それは、これから幸せに生きていくために、どうしたらよいか、ということなんです。
 皆さんは、哲学で「人生をいかに生きるべきか」ということを学んだと思います。これは、よく勘違いをしますが、たとえば、人類救済のような高邁な思想を言ったのではなく「人は、どう生きれば、幸せになれるか」ということなんです。
 人生で一番大切なことは、それは、幸せかどうか、ということですよ。私達は、この世の中に何百年も生きられるわけじゃない、たった数十年しか生きない。ですから、幸せに人生を生きていくことが出来ないとすれば、どうしますかね。この世の中に生まれるということは、大変なことです。天文学的な確率。天与の生命としか言いようがない。しかし、不幸な人生を送っている、生きてきた意味がなかったとしたら、あなた方、どうしますか。

ドストエフスキーが「罪と罰」という大変な小説を書いていますが、これは犯罪小説でも心理小説でもない。どう生きていけば、幸せに生きていけるかということをテーマにして書いた小説なんです。
 小林秀雄がゴッホを書いていますね。ヴィンセント・ヴァン・ゴッホと弟のテオドールとの往復書簡を基にして書いた、彼の伝記に近いものです。これも、どう生きていったらよいのだろうかという、ゴッホの生き方をテーマにしているわけです。
 パスカルも「パンセ」を書いていますけれども、パスカルは「人間は考える葦である」ということを言っていますね。これは、どう生きていったらよいか、幸せになれるかということを書いたものです。
 みんなそうなんです。

幸せな人生かどうかを決める、その一番大きなことは何ですか。仕事ですよ。仕事が、時間的にも人生の大部分を占める。これは当たり前です。そして、人生が成功するかどうか、大事なことは、仕事の中に人生の軸足があるかどうかです。言い方を変えれば、自分の本当の気持ち、心がその仕事の中にあるかどうか。単に金がほしい、生活費を得るために、そんなことだけで働いているとしたらどうなりますか。仕事はできない。いつも失敗します。職場では月給泥棒と言われる。みんなから白い眼で見られる。もちろん、地位が上がるとか、給料が増える、そんなことを言っているんじゃないんです。仕事に生きがいを見つけることができるか、その仕事の中に、喜びも悲しみも、自分の人生を見つけることができるか。それが、大事なことなんです。仕事が嫌で職を転々とする、それは不幸ですよ。そういうことがあってはいけないんです。

私はいつも思うんですが、幸せというのは、苦しいことと裏腹だと思います。つらいこと、忍耐しなければいけないことは、生きがいに繋がっている、幸せに繋がっているんだと思います。これと逆は、刹那主義です。一時の快楽を求める。スマホでゲームをやって何時間も過ごす。どうですか?終わった後で、むなしさを感じませんか?つまらない男に引っかかる、つまらない女に引っかかって青春時代を無駄にする、それで幸せですか。つらいかも知れないが、自分が本当にすべきものの中で生きていくとすれば、つらくともその時が過ぎて、本当に自分の人生が幸せであったことが、後で分かりますよ。

そしてね。自分が本当にしたいと思う仕事をするのであれば、決してつらくはないんですよ。
  本田宗一郎という人を知っていると思いますけれども、世界のホンダモータースの創立者ですね。この人は「自分は、仕事をしたことはない。楽しかった。やったことはみんな遊びだった」というようなことを言っています。高等小学校しか出ていなくて、自転車屋の親父さんですよね。
 彼は、坂道を自転車で重い荷物を運ぶ人を見て、ぜひ自転車にエンジンを付けることができないかと、そういうことを考えたんです。戦後、進駐軍から払い下げてもらったエンジンを自転車に付ける。そういうオートバイを作るために、三日三晩寝ないで仕事をしたというのです。本田自転車店の小僧さんたちも不眠不休だった。本田は後になって、本当にその頃が一番楽しい時代だったということを述べています。店員の人もそう言っている。全部仕事を遊びにしてしまった人です。
 京セラを作った稲盛さんも同じです。京都の、電柱に付ける絶縁体、磁器を作っている小さな会社に勤めたんですけれども、何とかその磁器でITの部品が作れないかと考えたんです。午前0時を過ぎても仕事をやっていた。まさに365日仕事です。家でも考えた。それでも楽しかった、というようなことを彼は言っています。世界の京セラ、そして、倒産した日本航空の初代の社長になって会社を再建した人です。

仕事に真剣に取り組もうとしたら、その仕事は大変つらいものになります。でもそれが楽しいんです。そして、365日、24時間仕事をする。そういう気持ちで。みんなそうですよ。音楽家だって、絵描きだって、研究者だって、法律家だって。
 私も若いときに検事や刑事弁護士として働いたことがありましたけれど、歩きながら事件を考える、家に帰って、お風呂に入って、その事件のことをまた思い出す。布団に入っても考えてみる。大変だけれども、つらいけれども、それが楽しいんです。時が過ぎて後になって、そのときのことを思い出します。人生で何が一番楽しかったかというと、そのつらかった、厳しかったその時代が、懐かしく楽しく思い出されます。どうして会社員や公務員になって、それが出来ないんですか。みんな同じですよ。

学生諸君が本を読まなくなったといわれますね。半分以上の人がほとんど本を、文章を読まないんです。あなた方は、本を読まなくてはいけません。そして、少なくとも卒業して何年かは、仕事に真剣に向かい合って仕事中心に生きていかなければいけない、そう思います。幸せになった人、成功した人はみんなそうです。
 私が昔、刑事弁護士をしていたといいましたけど、長い間、無罪を争った事件をやっていたことがありました。4年も5年もかかった。最後のぎりぎりのときに、アリバイになる証拠が見つかった。事件当日その人が広島県に宿泊していて、犯行現場にいなかった、という物証をやっと見つけたんです。それを最後の弁論の前に出して、判決は無罪になった。本当に大変だったこの4年間、5年間という時間が、後になってみて、私の人生にとって本当にこの事件をやって良かったなと、今もそういう気持ちでいます。

皆さんは今日卒業して、これから自分で生活をしていかなければならない立場にあるわけで、お父さん、お母さんの責任は、もう果たしたと言ってもよいと思います。
 あなた方が、これから享楽に走り、毎日その日暮らしの生活をする。仕事に関心がないとすると、当然仕事はできませんからね。仕事を辞めざるを得なくなって、職場を転々とする。そうなったら、お父さん、お母さんはどう思いますか。おそらく、そういう子供を抱えて死ぬに死に切れない、そういう気持ちだと思います。あなた方が本当に親孝行をする、恩返しをしたいということであれば、仕事に真剣に取り組んで、職場で高い評価を受ける。上司からも大事にされる。あなた方自身も、この仕事を選んで良かったなという思いで生きていく。そうなったら、お父さん、お母さんは、安心して自分の下から子供が巣立っていった、そういう思いになるんです。本当の幸せな気持ちになれると思います。もう心残りはない、そういう気持ちですよ。それが本当のあなた方の親孝行じゃないですか。私はそんな気持ちがいたします。

これからあなた方と何年か後に会えるか、あるいは一生会えないかもしれません。でもあなた方が、社会で元気に活躍しているということを、人伝いにも聞ければ、私もうれしく思います。
 皆さんは、今度は一人ひとりの力で生きていかなければならないわけですけれども、立派になって、あなた方のそういう姿を楽しみにして、今日の告辞といたしたいと思います。



学長 小泉 健




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