エッセイ一覧


卒 業  ― 親や家族が子どもを思う気持ちを書き綴りました。

卒業式高校や大学でも、卒業生を送り出す時期を迎える。就職して県外に出る学生も多く、残された両親は、子供が小さかったころの、苦しかったけれど楽しかった一家団欒の日々を思い出して暮らす。子供が熱を出し、車に乗せて開いている病院を探した冬の日のこと、子供が大学に合格して涙を流した日のこと、成人式ではじめて晴れ着を着た誇らしげな顔、それらはみんな遠い過去の思い出だ。

私は公務員になり家を出たが、転勤をするようになった後も、母は私の勉強部屋をそのままに残した。帰省すると、私がナイフで傷をつけた古い机も、雑誌から切り抜かれ壁にはられた色あせて黄ばんだ絵も残されていた。

私は母を晩年にひきとり、母は私のもとで死んだ。母の遺品の中に、私名義の銀行の通帳があり、私が送金した金がそのまま手つかずの形で残されていた。

最近BSで、中国の映画を観た。

このおばあさんは、娘が産んだ孫を育てた。その男の子は村を出て、北京の大学を卒業すると、経済特区で企業の社員として働くようになった。

娘が死んだ。老婆は、一人で暮らすうちに目が見えなくなった。

歳をとった郵便配達人が、山を越えて、毎月孫からの送金を届けに来る。封筒の中には、紙幣のほかには紙幣をつつんだ白い紙が一枚入っているだけで、手紙はない。

目の見えないおばあさんは、「手紙を早く読んでおくれよ。何て書いてあるんだよ」と聞く。

郵便配達人は、その白紙を何事もなかったかのように読み始める。

「おばあさん、体の具合はどうですか?目の具合はどうですか?僕は特区の会社で頑張っています。毎日本当に忙しくて、自分の時間もとれない状態です・・・」

おばあさんは、黙ってうなずいて涙を流す。

郵便配達人はやがて歳をとり、独り息子を自分の郵便配達の後継人とするべく、村々を一緒に歩いた。配達人は、息子と一緒にあのおばあさんの家に行く。 孫からの手紙を開封すると、いつものように、郵便配達人は、「お元気ですか?目の具合はどうですか?僕は特区で頑張っています。 毎日本当に忙しく、自分の時間がありません・・・」と音読する。今度は息子が父親に代わってその後を続ける。

「おばあさん、僕はおばあさんと一緒に暮らしたいです」

おばあさんの見えない目からは、涙が流れる。

その帰りの山道で、郵便配達人は息子に言った。

「出て行った人は置いてきた家族を忘れてしまうが、残された家族はいつまでも出て行った人を思い、決して忘れることはない」

作成日:平成23年1月5日